宮城県の鳴子温泉郷周辺に計画中の7つの大規模風力発電事業の問題点
日本雁を保護する会/ラムネットJ理事 呉地正行
温泉とこけしで知られる宮城県大崎市の鳴子温泉郷周辺で、4事業者による7つの大規模風力発電建設計画の手続きが進んでいます。この計画はさまざまな問題を孕んでいます。まず第一にその規模の大きさです。高さが200メートル級の風車が最多で計約190基、総出力約65万キロワットという規模で、これらの大型風車が鳴子温泉を含む宮城、山形両県の3市3町にまたがる山々の稜線に林立することになります。その中には東北大学が放射性物質に汚染された牧場地をそのまま事業者に貸し付けた計画も含まれています。このような大規模事業計画に対して、健康面、安全性、工事に伴う環境破壊と放射能汚染、渡り鳥のガン、ハクチョウ類などの衝突事故、および鳴子温泉郷の財産でもある美しい風景の破壊への不安が高まりました。そしてこの問題に取り組むために「鳴子温泉郷のくらしとこれからを考える会」(なるこれ会)が発足し、ラムネットJの構成団体で宮城県北部を拠点とする、NPO田んぼと日本雁を保護する会もこれに加わり、問題解決をめざす活動に取り組んでいます。専門家や地元行政を招いての勉強会、地元議会への陳情を行い、2月16日には、全計画の白紙撤回を求める反対署名3095筆を村井嘉浩知事宛てに提出しました。全国有数の温泉地に、降って湧いた大規模開発に対し、常連客から「鳴子の風景に癒やされてきた」「景観を壊さないで」といった声が相次いでいます。
鳴子温泉郷周辺で、計画されている7つの大規模風力発電建設事業
7計画のうち、最も大きな問題を抱えているのは、東北大学が所有する牧場に建設される「六角牧場風力発電事業」です。ここには大きな2つの問題があります。一つは、この場所は2011年3月の東京電力福島第1原発の水素爆発事故で飛散した放射性物質に汚染し、牧場として使用できなくなった土地だということです。東北大学は牧場を除染せずに事業者へ貸し付け、そこに大型風車群が建設される計画であるということです。工事が始まれば、放射性物質が周辺地へ流出することを懸念する意見が、宮城県環境影響評価技術審査会で、放射性物質の専門家から出ています。国立大学が遊休地を大学業務と無関係の第三者へ貸し付けて収益を得ることは、2017年の法改正で認められるようになりましたが、放射性物質に汚染された土地を貸し付けた例はなく極めて異例と文部科学省も認めており、東北大学の大学人としての倫理観が厳しく問われる出来事です。
宮城・鳴子温泉郷で計画が進む「(仮称)六角牧場風力発電事業」のイメージ図(一般財団法人日本熊森協会作成・提供)
もう一つは、ここがガン類の重要な渡りの経路になっているということです。日本雁を保護する会などが企画し、鳴子の地元住民が中心となった渡りの市民調査を今年度継続して行いました。その結果、多数のガン類が渡りの時に風発のブレード(羽根)と衝突する高度で通過することがわかりました。その中には40年かけて絶滅からやっと復活した絶滅危惧種のシジュウカラガンも多く含まれることもわかり、生物多様性の点からもその影響が極めて大きいことがわかりました。
東北大学の六角牧場方向へ渡るガンの群れ(2022年3月5日、撮影:富張菜々子)
反対署名は左記のサイトで行っています。さらなる署名へのご協力もよろしくお願いします。
(ラムネットJニュースレターVol.47より転載)
2022年05月01日掲載