諫早湾干拓問題:福岡高裁が「開門」確定判決を「無効化」?!
有明海漁民・市民ネットワーク/ラムネットJ理事 菅波 完
■現実とはかけ離れた「漁業回復」
諫早湾干拓を巡り、今年3月25日に福岡高裁が示した判決は、2010年12月に同じ福岡高裁が命じた「5年間にわたって開門せよ」という判決(当時の民主党政権が上告せず確定させた)について、国(農水省)の主張を認め、判決の強制執行を認めないというものでした。
諫早湾閉め切りが、有明海の成層化、潮流潮汐の減少、赤潮の大規模化を招き、それが深刻な漁業被害の要因であることを認めたのが、2010年の「開門」判決でした。しかし、今回の判決は、漁獲量が「増加傾向にある」という農水省の主張を認めました。農水省の主張は、下のグラフの通り、シバエビの漁獲量が増えていることを強調したものです。かつて主要な漁種であり、現在は漁獲量が激減しているクルマエビにくらべ、単価の安いシバエビの漁獲量が増えても漁業の回復とはいえません。他に捕るものがないからシバエビを捕るしかないのです。現実とかけ離れた農水省の主張を、裁判所が認めてしまったのは許しがたいことです。
諫早湾近傍の3つの組合(大浦、島原、有明)の主な魚種の漁獲量
(国が裁判で提出したグラフと資料を元に作成)
■和解協議とは正反対の不当判決
この判決に至る過程で、福岡高裁は、2021年4月に「和解協議の考え方」という文書を示し、諫早湾干拓をめぐる問題を話し合いによって解決することを強く促していました。特に、「今日の事態を招いた国の特別の役割・責任」を強調し、農水省に対し、「これまで以上の尽力が不可欠」、「国の主体的かつ積極的な関与を強く期待する」と述べていました。
一方、農水省は、和解協議に応じる姿勢を全く示さず、裁判所への対応は実に不誠実なものでした。その流れからすれば、福岡高裁は、国側の訴えを却下するものと期待していたのですが、実際の判決は国側を勝たせるもので、漁業者としては裁判所に裏切られた思いです。
この判決は、熊本日日新聞の社説でも、「国の「ゴネ得」を裁判所が容認するのか」と厳しく批判されましたが、司法への基本的な信頼にも関わる極めて重大な問題です。
■求めてきたのは「農漁共存」
昨年、福岡高裁が示した「和解協議の考え方」は、「国民的資産である有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、地域の対立や分断を解消して将来にわたるより良き方向性を得るべく、本和解協議の過程とその内容がその一助となることを希望する」という言葉で締めくくられていました。判決はひどいものでしたが、私たちが目指すことは、この「考え方」のとおりだと思います。
もともと、漁業者が訴えてきたのは、漁業と農業の共存共栄であり、防災対策も講じた上での「開門」です。漁業者は、今回の福岡高裁の判決を不服として最高裁に上告しました。私たちは、今後も話し合いによる問題の解決と有明海の漁業・自然環境の再生を目指していきます。
(ラムネットJニュースレターVol.48より転載)
2022年08月09日掲載