ラムサール条約COP14のご報告
ラムネットJ共同代表 永井光弘
ラムサール条約第14回締約国会議(COP14)が、2022年11月5日から13日までの間、主としてジュネーブで開催されました。「主として」というのは、当初の2021年に中国・武漢での開催予定がコロナ禍のため変更され、主催(と開会式)は中国のまま会議本体はスイス・ジュネーブで行われたからです。
ラムネットJから7名、ラムネットJがメンターを引き受けたユース2名の合計9名で参加しました。会議の全体な印象としては、ほぼ同時に行われた気候変動枠組条約(COP27)や、年末に行われる生物多様性条約(COP15)との連携が強く意識されたCOPでした。
●決議
本会議では、2025年からの第5次戦略計画骨子に関係する決議案、条約への若者世代の参加を促進・支援する決議案、公教育に湿地を学ぶカリキュラムを推奨する決議案、気候や生物多様性危機に対し湿地を「自然を活用した解決策」と位置付ける決議案、などが議論のうえ順次採択されました。若者参加の決議案は、他の環境関係条約(生物多様性条約など)では若者参加を支援する仕組みがあるのにラムサール条約にはないことから、若者世代がオーストラリア等の締約国に働きかけ実現させたものです。湿地と公教育の決議案は、韓国・中国からの提案です。
異色だったのは、ロシア侵攻に由来するウクライナの条約湿地の損害へのラムサール条約の対応に関する決議案です。ウクライナの意見表明を受け事務局長の強い示唆で決議案とされ、異例の投票(50年の歴史で3例目)に付され可決されました(日本を含む50か国の賛成、7か国の反対、47か国の棄権)。これらCOP14での主要な決議はラムネットJにおいて翻訳のうえウェブ上でご覧いただく予定です
本会議の様子
ラムネットJによるサイドイベント
●サイドイベント
本会議の間(昼休み、夕方等)に、NGOや締約国がサイドイベントを開催して湿地行政に働きかけようとするのが慣例となっています。ラムネットJも他団体と協力して2つサイドイベントを開催しました。ひとつは「田んぼの生物多様性」に関するもので、もうひとつは「水の自然な流れ」に関するものです。後者は、開発行政へのアンチテーゼとして「水の自然な流れ」の重要性を訴え、自然の水循環の中でその障害となる人工的構造物を極力造らないこと、あるいは取り除くことを提唱するものです。ラムネットJが主唱したIUCN世界自然保護会議2020の決議17(https://www.ramnet-j.org/2021/05/report/4994.html)につき、IUCN発表者から改めてその意義を指摘いただきました。また、「水の自然な流れ」をもその内容とする"湿地の権利に関する世界宣言"(Universal Declaration of the Rights of Wetlands)が討論部分で紹介されました。湿地の権利宣言は、次回COPで決議としての採択を目指しています。これは「水の自然な流れ」の理論的支柱ともなりうるもので、今後さらに勉強し、紹介していきます。
●ユース
IUCN日本委員会の支援を受け、ユースとして会議に参加した平野叶大君と加々美薫君は、若者世代と条約とのかかわりについて、新鮮な視点を提供してくれました。彼らのような若い世代にCOPへの参加を通じて国際環境条約の現場を体感してもらったことがまずは大きな成果だと思います。そして、関心を持つ日本の若い世代にそのことを伝え、また、世界の若い世代との間で環境保全のため意見交換し、湿地保全の力となってもらうことをひそかに期待しております。
●NGO会議、WWN
ラムネットJは、WWN(World Wetland Network)の一員として、会議期間を通してNGO間で情報を交換し、また、会議に向けての情報の発信に努めてきました。毎朝定例のNGOミーティングでは有益なサイドイベントや、決議案の議論の勘どころなど、有意義な情報交換ができました。今回は議長国の意向もあり、NGOとしてオープニングステートメント表明は見送りました。しかし、地道なネゴシエーションの結果、WWNとしてクロージングステートメントを本会議で発表し、条約会議が市民社会や若者と連携強化するための具体例を示しました。
WWNによるクロージングステートメント
●その他
ラムネットJの展示ブースは、会議期間の始めから終わりまで、大にぎわいでした。資料を託していただいた皆さまによる日本の湿地での取り組みは、世界の多くの人に伝わったと思います。また、会議期間中に隣町グランまでIUCN本部を表敬訪問したメンバーもいて、IUCN担当者と有意義な面談ができたようです。その他、今回のCOP参加を通じて私自身も今後のラムネットJの活動につき多くの示唆を得ました。
最後となりましたが、私たちのCOP14への参加を支えていただいた、経団連自然保護基金、地球環境基金そしてクラウドファンディングに応じていただいた多くの方々に感謝いたします。
(ラムネットJニュースレターVol.50より転載)
2023年01月30日掲載