風力発電が鳥類に与える影響とその配慮
(公財)日本野鳥の会 主任研究員 浦 達也
全世界的に気候変動対策が求められる中、日本でも2020年10月に菅総理(当時)が2050年カーボンニュートラル宣言を行い、以降、風力発電を含む再生可能エネルギーの導入促進に向けた規制緩和が進められています。
海岸に建つ風車に衝突死したミサゴ(撮影:佐々木正美氏、2018年4月14日)
こうした中、風力発電事業が増えるにつれ、立地によって野生動植物の生息環境や景観など自然環境への影響が発生するようになっています。畦地啓太氏らによる論文(2014)では、地域で環境紛争が発生した59事業のうち、35事業(60%)が希少猛禽類の生息地を巡る問題であり、最も多い紛争発生理由でした。環境省の調査では、環境アセスメント手続きの中で事業の見直しなど厳しい環境大臣意見を出した24事業のうち、重複はありますが21事業が猛禽類の生息地、9事業が渡り鳥の移動ルートに影響があるとして、厳しい意見の理由の第1・2位になっています。このように、野鳥とその生息環境は、風力発電施設の建設にあたり、できる限り影響を配慮すべき対象であることは明らかです。
福井県の北潟湖の近くに建つ風車群を避けて飛ぶマガンの群。色付点線1本がマガン1群(数百羽)を指す(日本野鳥の会調べ)
日本野鳥の会のまとめでは、国内で2023年1月までに604羽のバードストライク(野鳥が風車に衝突し死傷すること)の発生を確認しています。発生数が多い順にトビ94羽、オジロワシ73羽などタカ目210羽、カモメ科68羽、カラス科43羽、カモ科28羽、ウミスズメ科27羽などです。また、同会では国内のいくつかの陸上風力発電施設において大型の渡り鳥で障壁影響(風車の存在により野鳥の渡りや移動ルートがこれまでと変化してしまうこと)が生じていることをレーダー調査により確認しています。障壁影響を確認したのはカモ科のマガン、コハクチョウ、タカ科のハチクマ、オジロワシ、オオワシ、サシバ、ノスリですが、日本では今後、洋上風力発電も増えていくため、海上を渡る鳥にどのように障壁影響が生じるか懸念しています。海外の洋上風力発電では生息地の移動(風車の存在により海鳥の生息海域がこれまでとは別の場所に余儀なく移動させられること)の発生も確認されており、日本は海鳥の生息数や生息海域が多いため、どのような影響が生じるかも心配です。
日本野鳥の会が作成した北海道宗谷地域北部を対象にした鳥類と風力発電のセンシティビティマップ(左図)と宗谷地域におけるガン・ハクチョウ類の渡り経路(右図)
今後、風力発電事業において野鳥への配慮を進めていくには、まずは予防原則に基づきながら、野鳥への影響が発生する可能性がある場所や環境から離れた位置に風車を設置することが重要ですが、それにはゾーニング(あらかじめ風力発電の建設適地または不適地を示す行政施策)やセンシティビティマップ(希少種や風力発電に脆弱な鳥の生息場所などを示す地図)の活用と拡充が重要です。また、事業者自らによる配慮が進むには、希少種の個体や生息環境に影響を出した際の厳しい法的罰則規定を設けることも必要と考えます。そして、山形県・鶴岡市長が今年2月1日、同市加茂地区にあるラムサール条約登録湿地「大山上池・下池」から2kmしかない場所に計画されている(仮称)鶴岡加茂風力発電事業に対し、野鳥保護を理由に事業計画の中止を申し入れたように、豊かで希少な自然環境が残っている場所に風力発電を建設すべきでないという雰囲気が市民や行政機関の間でさらに醸成されていくことが、事業者による環境影響への配慮を促す最も重要な手段になると考えています。
(ラムネットJニュースレターVol.51より転載)
2023年05月02日掲載