湿地巡り:霧多布湿原(北海道)
NPO法人霧多布湿原ナショナルトラスト 係長 島﨑 楽
霧多布湿原は、北海道東に位置する「浜中町」にある面積3168haの湿原です。本州での高山帯で見られるゼンテイカ、ワタスゲ、ハクサンチドリ、クロユリなど、1年間を通して300種以上の野生植物が見られることから、別名「花の湿原」とも呼ばれています。また、タンチョウやアカアシシギなどの水鳥が繁殖し、冬季にはコクガンが越冬するなど、水鳥の生息にも重要な湿地のため、1993年にはラムサール条約湿地に登録されています。湿原の周辺には森林や海岸などの多様な自然環境が広がり、ヒグマやラッコなど、多くの動物が生息しています。森・湿原・川・海といった自然環境がコンパクトにまとまっている地域は全国的にも珍しく、2021年には国定公園にも指定されています。
霧多布湿原の眺め
全国的にも重要な湿地である霧多布湿原ですが、浜中町は昆布漁を中心とした漁業の町であり、約60年前までは昆布を運ぶ馬を湿原に放牧していた歴史がありました。そのため、湿原全体の面積の約1/3にあたる1200haは民有地であり、これらの土地は、工場や太陽光パネルの建設による埋め立てが行われ、開発の危機にありました。そこで、2000年にNPO法人霧多布湿原ナショナルトラストが発足し、湿原の民有地を買い取り開発の危機から守る「ナショナルトラスト運動」を中心とした保全活動を開始しました。団体設立からの22年間で、霧多布湿原内とその周辺域1073haの土地を取得し、保護区化した土地は、木道を設置し散策路として開放しているほか、環境教育活動やエコツアーなどの普及啓発活動のフィールドとしても活用しています。また取得した一部の土地を活用して、砂利が敷き詰められていた昆布干し場から湿原への復元モニタリング調査を行っています。このように、霧多布湿原ナショナルトラストは「湿原の保全」「湿原のファンづくり」「湿原の調査・研究」を活動の3本柱として、霧多布湿原を次世代に残すための保全活動を行っています。
湿原(薄緑色) 保全地(ピンク色)
(ラムネットJニュースレターVol.51より転載)
2023年05月02日掲載