ハナノキ湿地群とリニア残土問題
可児ネイチャークラブ 調査員 篭橋まゆみ
"美佐野ハナノキ湿地群"は、岐阜県可児郡御嵩町の東南部、押山川と木屋洞川の2つの川に挟まれた丘陵地帯にあり、面積100~500m2程の小湿地が20カ所以上点在しているところです。
東海地方の固有種であるハナノキ(国VU)、シデコブシ(国NT)の町内最大の群生地であり、湿地にはミカワバイケイソウ(国VU)*1、クロミノニシゴリ、ミヤマウメモドキ、ヒメコヌカグサ(国NT)*2、ミズギボウシ、サワシロギク、カザグルマ(国NT)などが見られます。
ヒメタイコウチ(国NT)、アカハライモリ(国NT)、ギフチョウ(国NT)、なども生息し、鳥類では15年以上前からサシバ(国VU)、ミゾゴイ(国VU)、サンショウクイ(国VU)、ハチクマ(国NT)などの営巣地として観察が続けられてきたフィールドです。
美佐野ハナノキ自生地の概略図
2016年、環境省の「日本の重要湿地」に選定されましたが、昨年(2022年)メディアが明るみに出すまでの6年間、町はそのことを伏せていました。
JRは、環境影響評価に配慮し"重要湿地を回避する"と方法書で謳っています。それがなぜトンネル残土の処分場予定地となり、回避されないのでしょうか? それは、リニアのトンネル地上部(150m)から、公道に出ることなく残土処理できる絶好の場所にあるからです。自然への配慮より、経済性と効率を最優先しているのです。
トンネル残土は、民有地の候補地Aと町有地の候補地B合わせて平場面積13ha(法面を含めると23ha)に90万m3を埋める計画です。候補地Aは高さ85mの盛り土、候補地Bは重金属等を含む"要対策土"50万m3の遮水型恒久残土処分場が予定され、地元住民の不安は募るばかりです。
美佐野湿地の様子
美佐野処分場予定地のハナノキ
2022年度、町民の不安を払拭する目的で6回に及ぶフォーラムが開催されました。最後まで平行線のままでしたが、2023年6月2日の議会で現町長は「受け入れ前提を白紙に戻すつもりはない」と答弁しました。
埋め立てにより、ハナノキだけでも成木総数約80本の30%近くが伐採され、重要湿地の約30%が消滅することになります。保全策として"ハナノキの幼木移植と育苗""ギフチョウの食草ヒメカンアオイの卵塊移植"などが示されていますが、すべてJR主導で進められていることを危惧しています。
御嵩町は重要湿地の保全方針として、"高木の多いハナノキ群生地は更新"し、歩道整備、保全グループの設立、イベント活用等を検討しているそうですが、その担当は「環境モデル都市推進室」ではなく「リニア対策室」です。自らは植生等の実態把握をしないまま、JRに追随している点に不安を抱かずにはおられません。国際的な生物多様性への取り組みに逆行する、湿地を残土で埋め立てること自体を止めるべきではないでしょうか。
*1 環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類
*2 環境省レッドリスト準絶滅危惧
(ラムネットJニュースレターVol.52より転載)
2023年08月16日掲載