育み守ってきた谷津田を次世代につなげていくには ─千葉市・下大和田谷津田の保全─
ちば環境情報センター 小西由希子
千葉市内では約4300種の野生動植物が確認され、多くが谷津田や里山で見られることから「谷津田の保全」が重点施策に位置づけられています。私たちのフィールド下大和田(猿橋地区)谷津田も「景観、動植物の生息環境等を特に重点的に保全すべき区域」とされ、環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山」選定地となっています。
ここは、昭和40年代に土地区画整理事業が計画され用地買収が始まりました。その後頓挫し、虫食い的に買収された土地が放置されて現在に至っています。田は泥深く、米作り農家は一軒しかありません。しかし、豊かな湧き水にミナミメダカやニホンアカガエル、ヘイケボタルなど多くの生きものが生息しています。私たちは1996年から活動を始めました。自然観察会やごみひろい、米作り、森と水辺の手入れを続け、幼児・小中学生、高校生・専門学校生、大学生、現役世代から年配者まで幅広い参加があります。
開発予定地(黄色で囲んだエリア)とその周辺(Googleマップを改変)
今ここに地元企業による開発が計画されています。今年4月、千葉市が市街化調整区域の大規模物流施設の立地基準を緩和したことも引き金になっています。広さは約76ha、本年4月26日に環境影響評価方法書(以下方法書)が公示され、9月1日に市長意見が発出されました。
事業予定地の利点は東金有料道路中野ICに近いことですが、道路・上下水道・ガス・電気などすべてのインフラが未整備で、住民の高齢化も進んでいます。
方法書説明会には地元に加え米作り参加者の親子連れなど多くの市民が参加しました。また方法書への市民意見では、55人が皆自分の言葉で思いのこもった意見を提出しています。市長も「事業計画の見直しを含めた慎重な検討が必要」と指摘し、森林の役割にも触れ、配慮を要請するなど厳しい意見を出しています。事業者が今後これにどれだけ対応していくかが注目されます。
下大和田谷津田(西側からの空撮)撮影:田中正彦
暗視カメラに写ったアカギツネ
このような中、今年2月、暗視カメラでキツネが確認されました。千葉市レッドリストで消息不明・絶滅生物とされ、35年ぶりの発見です。さらに、ヒクイナや環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類のミゾゴイも発見され、生物多様性の豊かさと貴重さが改めて認識されたところです。
事業計画地を含めここには谷津田と台地(畑や牧草地、荒れた山林)を合わせると130ha以上もの緑が残っています。政令市千葉市にとって、100haを超えるまとまった緑が残っていることはいまや奇跡とも言えましょう。どんなに日照りが続いても湧き水は涸れたことはなく、さらにこの水は鹿島川を流下して印旛沼に入り、市民県民の飲料水源ともなっているのです。
下大和田開発計画 作成:小田信治
イノシシが闊歩して荒れていく森を何とかしたいと考える地主さんのお気持ちも理解できますし、ずっとこのままでよいとは思いません。地元でも開発を望むと望まない両方の意見があると聞いています。今後は事業者、行政、地元と私たち市民団体も入った協議会を立ち上げて、さまざまな立場であり方を考えていく努力が必要ではないかと考えています。
昨年度から私たちは、この地区で米作りを長く続けていただくために、お米を共同購入させていただくことにしました。皆さまもぜひお力をお貸しください。よろしくお願いいたします。
(ラムネットJニュースレターVol.53より転載)
2023年11月12日掲載