湿地巡り:重富海岸(鹿児島県)

NPO法人くすの木自然館 浜本 麦(ばく)

重富海岸地図
 「重富海岸」は、鹿児島県の中央に位置する鹿児島湾(通称:錦江湾)のふちにある海岸です。海岸内には松林が広がり、白砂青松の風景が広がります。干潮時には最大53haの干潟もあらわれ、ハクセンシオマネキやクルマエビなどの甲殻類、ムギワラムシやヤマトカワゴカイなどの多毛類、チワラスボやキス、ヒラメなどの魚類までさまざまな生き物が生息しています。一年を通してミサゴが飛び、冬にはクロツラヘラサギもやってきます。
 私たちは、この海岸を拠点に環境教育を行っているNPO法人です。海や干潟だけでなく、森や川、湿地や里山などさまざまな環境のつながりから、人と自然の無理のない持続可能な共生社会を作るための活動をしています。

干潟の生き物観察ツアー
干潟の生き物観察ツアー


 今でこそとても美しく、年間4万人以上が訪れる重富海岸ですが、40年前には埋め立て計画があり、20年前はゴミにあふれ人々から見放された海岸でした。見放され荒れていた頃も地元の方から聞こえるのは「昔はよかった」という声です。
 では、なぜ「昔はよかった」と言える海岸が荒れるのでしょうか? 私たちはそれは、その場所の価値を知らず「あって当たり前」と思ってしまうからではないかと考えました。

ハクセンシオマネキ
ハクセンシオマネキ
ムギワラムシ
ムギワラムシ

 20年前、私たちはこの海岸の価値を知り、残したい・守りたいと思える人を増やす活動を始めました。調査研究をし、そのデータを元に展示をつくり、使われていなかった海の家の建物を活用した博物館で発信し、さまざまなイベントで干潟や松林の価値を伝えました。ゴミだらけだった海岸では、毎日記録をとりながら拾い、ゴミを捨てたくないと思える対策をし、ゴミの落ちていない海岸を作りました。すると、多くの方が自ら一緒に保全活動をしてくれるようになったのです。「保全」が進むことで「利用」する人が増えました。2012年には国立公園の園地にも組み込まれています。
 価値を知り、その場所を好きになる人が増えると場所は荒れません。これからも重富海岸は人も生き物も共生する海岸を維持していきます。

2024年02月10日掲載