吉野川河口を未来に引き継ぐために
とくしま自然観察の会/ラムネットJ理事 井口利枝子
吉野川の河口の広さは日本一、わが国最大級の汽水域と河口干潟を有し、河口域の干潟は、シオマネキが多数生息し、渡り鳥の中継地となっています(「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ」参加地)。河口域は、その地理的特性から、法的にも行政的にも複雑な状況にあり、河口には、20年以上の間に複数の大型工事(2本の道路橋、河口人工海浜など)が集中し、複合影響が懸念されています。
吉野川河口に完成した2本の橋(阿波しらさぎ大橋と最河口高速道路橋)
シオマネキの稚ガニ
本会はラムネットJなどの協力を得て、複合的環境影響評価、ラムサール条約湿地としての国際基準を担保する環境保全措置、アセスメントや工事の影響評価法などの検討、保全措置の決定プロセスの公開などを要望してきました。その成果として、阿波しらさぎ大橋(河口1.8km)や最河口高速道路橋については、モニタリング調査が継続して実施され、20年間の調査データがウェブ公開されています。高速道路橋に関する総合評価については、今年1月中にパブコメが実施され、2024年今春で河口域のモニタリングが終了します。しかし、シギ・チドリ類など渡り鳥を含め、河口干潟生態系への影響をさらに見守り続けることが必要だと思います。
コロナ禍の中、本会では、20年以上継続してきた、干潟や海岸の観察会や環境学習、あるいは市民調査は控えてきました。2018年から昨年まで、河口干潟では、流木、ヨシ片、プラスチック類などの大量の漂着ゴミの堆積が頻繁にみられ、シオマネキなどの生息環境を守るために市民ボランティアによる清掃活動に専念してきました。昨年夏には人工改変や漂着ゴミあるいは砂の堆積による河口環境の変化を知るため、汽水域環境の健全度の指標であるシオマネキの生息調査を30年ぶりに実施しましたが、シオマネキの生息地や個体数が減っており心配しています。
吉野川河口の清掃活動に参加した市民ボランティアの皆さん
吉野川河口みらい講座のチラシ
フィールド活動を控えた期間、河口の多様な価値を多角的視点から再確認し、考え、未来に引き継ぐ方法を見出すために、ラムネットJとの共催でオンライン講座「吉野川河口みらい講座」をはじめました。これまで5回開催し、YouTubeで公開しています(下表参照)。この講座を通して、吉野川河口の生態系は、河口域から紀伊水道の漁場を支え、多くの生態系サービスを生み出す源であり、川と海をつなぐ河口域の役割や価値を多くの人々に伝えて保全していく大切さを再認識することができました。
多くの人々にとっては、生活の近代化によって今や吉野川河口は日常からすこし遠いものとなってしまったのかもしれません。しかし、その潜在的価値を考えると、今後の保全体制づくりが重要なのです。自治体をはじめさまざまな立場の人々の参加を得て、四国で初めてのラムサール条約湿地登録を実現し、河口域の価値を見守り、未来へとつなげていきたいのです。まだ間に合ううちに。
YouTubeで公開中の吉野川河口みらい講座 | |
第1回 | 底生生物からみた吉野川河口域の重要性 |
第2回 | 渡り鳥にとって吉野川河口域はどんなところ? |
第3回 | 吉野川で楽しむ!干潟の生き物ウォッチング |
第4回 | 徳島のさかなと漁業 |
第5回 | 徳島の海、近年の大きな変化 |
とくしま自然観察の会 |
(ラムネットJニュースレターVol.54より転載)
2024年02月10日掲載