イベント報告

干潟を守る日2011in諫早シンポジウム
諫早湾開門~農漁共存に向けて対話を求めて

●主 催:諫早干潟緊急救済本部/東京事務所、有明海漁民・市民ネットワーク
●開催日:2011年4月16日(土)13時30分~17時30分
●場 所:諫早市長田みのり会館

 昨年12月の福岡高裁判決の上告見送りにより諫早湾の開門調査が確定した中で行われた今年の諫早シンポジウム。一方で、長崎県と関係団体による開門阻止訴訟も準備される中、約90名の参加で、開門実現に向けた熱心な議論が行われました。
 まず、山下八千代・救済本部代表より主催者挨拶をした後、諫早湾の生物調査(主に貝類)を続けている佐藤慎一先生(東北大学総合学術博物館)から、かつての諫早干潟がいかに豊かであったか、短期開門調査(2002年)の実績から開門により環境再生が期待できることなど、干潟再生への期待が高まる基調講演がありました。
 続いて、よみがえれ!有明海訴訟弁護団の堀良一事務局長より、判決の意義と現在までの到達点、今後のロードマップなどが報告されました。国には開門調査を行う法的義務があること、開門阻止訴訟での争点はこれまでの有明海訴訟の中で議論し尽くされたものであり、原告に100%勝ち目がないこと、漁民と農民の双方を欺いてきた国の責任は重大で、両者への謝罪が不可欠であることなどが報告され、私たちに開門への希望と勇気を与えるものとなりました。中でも、開門確定という成果は、干潟湿地保全運動のスーパーヒーローだった山下弘文氏亡き後、漁民・市民・研究者・弁護士・環境NGOなど様々な立場の人々が、それぞれに力を尽くし、協力・協同して戦ってきた群像の力の賜であるという話が、とても印象に残りました。漁民ネットの菅波完事務局長からは、防災問題を中心に具体的な農漁業共存の解説があり、段階的な方法をとれば開門は十分可能であることが解りました。
 なお、シンポ資料として使用したWWF発行のパンフレットに詳しい解説があるので、ぜひ参照してください。
 後半のディスカッションは、会場からたくさんの発言があり、開門への熱気に包まれました。東日本大震災への募金に便乗した諫早市自治会による裁判費用集めが問題提起されたり、対話実現のための方策に悩んだりと、議論が尽きませんでした。
 最後に、まとめとして下記の「干潟を守る日2011in諫早アピール」を採択し、開門実現による農漁業共存の持続可能社会を作り上げる決意を確認し合いました。

(諫早干潟緊急救済東京事務所代表:陣内隆之)



●干潟を守る日2011in諫早 アピール

 2010年12月、諫早湾の開門調査を求める判決が確定し、いよいよ開門の実現に向かうことになりました。1989年11月の起工式以来、20年以上が経過した諫早湾干拓事業ですが、諫早湾内に始まり、1997年の潮受け堤防閉め切り後は有明海全域に広がった環境破壊と漁業被害から、干潟復元・有明海再生へと歴史的な転換の扉を開いたのです。湿地破壊の象徴となった“ギロチン”の悲痛を胸に4月14日を「干潟を守る日」と定めて全国の干潟・湿地の保全に取り組む運動が始まってから14年目の春を迎え、私たちは、ようやく希望の光を確かめ合うことができました。
 
 しかし、干拓事業推進に固執する長崎県と関係団体は、あくまでも開門に反対し、開門の実現は平坦ではありません。私たちは、農漁業の共存に向けて対話が必要であるという立場から、開門の在り方を検討しました。
 その結果、短期開門調査レベルの開門から始め、様子を見ながら常時開門を目指す段階的な開門方法を採れば、農漁業が共存し明るい未来が開けることを確認しました。
1) 農業用水は、水質の悪化した調整池の水を使うことなく、ため池や浄化センターの処理水など別途手当ができること。
2) 防災面では、第1段階の開門には現状でも支障はなく、第2段階において排水機場や樋門、排水路の整備などを進めていき、整備が完了したところで常時開門に至れば支障はないこと。またガタ土の浚渫は重機を使用すればよいこと。
3) 塩害は、佐賀県などでも報告されていないように、心配ないこと。
4) 排水による漁業被害は今起きているのであり、海水交換を伴う双方向の開門にすることで、むしろ被害の改善が期待されること。
5) 潜り開門などの方法により、豊かだった諫早干潟をある程度回復させることができる。
などです。

 国や長崎県の虚偽宣伝がもたらした長年の諍いに終止符を打ち、すべての住民が本当に安心・安全に暮らせるように、そして有明海沿岸地域の明るい未来を切り拓いていくために、今こそすべての関係者が真剣に話し合わなければなりません。
 
 東日本大震災の被害、特に原発事故による危機的状況は、私たちに、自然との共生そして持続可能な社会の構築が必要であることを教えています。無駄で有害な公共事業、止まらない公共事業の象徴と言われてきた諫早湾干拓事業ですが、湿地の保全・再生の取り組みが持続可能社会の構築に貢献するというラムサール条約の目標実現の第一歩として、諫早湾の開門を世界が注視しています。長良川河口堰のゲート開放をはじめ、開発の危機から湿地を救い守る全国の活動に確かな道筋を指し示すためにも、私たちは諫早湾の開門を確実に実現しなければなりません。
 私たちは、国に対して、開門アセスのプロセスに従うことなく、早急に諫早湾の段階的開門を始めることを求めるとともに、長崎県や関係団体が真剣に話し合いのテーブルにつくことを切望します。開門の実現により農漁業共存の持続可能社会を作り上げたいと願っています。    

2011年4月16日
「干潟を守る日2011in諫早」シンポジウム参加者一堂