沖縄防衛局に「那覇港湾施設代替施設建設事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見」を提出

米軍那覇軍港の沖縄県浦添市沿岸への移設をはじめとする浦添市西海岸の埋め立て開発計画において、2024年7月10〜8月23日まで、計画段階環境配慮書(「那覇港湾施設代替施設建設事業に係る計画段階環境配慮書」)に対するパブリックコメントの募集がありました。

この開発計画は、沖縄島中部西海岸で最も健全であるサンゴ礁生態系の破壊を伴うものであることから、ラムサール・ネットワーク日本では、海の生き物を守る会と連名で下記の意見を提出しました。

この意見書では、
1)沖縄島中部西海岸に残された健全なサンゴ礁生態系が喪失すること、
2)総合的に予定地の環境アセスメントを行うべきであること、
3)評価・予測の範囲を広げるべきであること、
などを指摘し、事業を中止して湿地を積極的に保全することを求めました。

那覇港湾施設代替施設建設事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見

2024年8月23日
沖縄防衛局長 伊藤 晋哉 様

那覇港湾施設代替施設建設事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見

ラムサール・ネットワーク日本 共同代表
永井光弘 金井裕
海の生き物を守る会 代表
安部真理子

 ラムサール・ネットワーク日本と海の生き物を守る会は、沖縄県浦添市で計画されている那覇港湾施設代替施設建設事業の計画段階環境配慮書に関して、湿地の生物多様性の保全の観点から、意見を述べる。本事業には下記のような懸念があり、脆弱なサンゴ礁生態系の生物多様性に大きく影響が及ぶことが懸念されることから、計画段階環境配慮書の段階で計画を中止すべきである。

1)沖縄島中部西海岸に残された健全なサンゴ礁生態系の喪失
 事業実施予定地には環境省や日本自然保護協会などの調査により健全なサンゴ礁があることが確認されている。事業者も配慮書の中でこの状況は確認しており、また日本自然保護協会が2021年から3度実施したリーフチェック調査ではサンゴの被度50%以上であることが確認されている。
 沖縄島周辺海域では1998年の大規模な白化現象以前は高いサンゴの被度を保っていたものの、1998年の白化現象により大幅に被度が下がり5%程度となり、11年後の2009年時点でも平均10%以下と全般に低い状態であった(沖縄県、2009)。最近においても沖縄島中部西海岸の予定地に隣接する宜野湾や北谷ではソフトコーラルが優占し、サンゴの被度が15%程度と回復が遅れており、かつては豊かであった那覇空港沖のサンゴ礁は那覇空港滑走路増設事業に伴い失われている。
 今夏の高水温のため広範囲にわたるサンゴの白化が報じられており(琉球新報 2024年8月12日)、被度が再び下がることは免れないが、自然の防波堤などサンゴ礁と言う地形が果たす役割には変わりがない。以上のような沖縄島周辺のサンゴ礁の現状を鑑み、事業実施予定地一帯に広がるサンゴ礁は健全で貴重なものと言える。

2)総合的に予定地の環境アセスメントを行うべきである
 2010年に完成した浦添市西海岸開発事業第1ステージ「那覇港浦添ふ頭地区公有水面埋立事業」、環境影響評価が今年開始した第2ステージ、今後予定されている第3ステージと本事業の4つの事業が存在することにより累積的影響が起こることが懸念される。特に構造物建設に伴う潮流の変化、底質環境の変化、サンゴや海草などの生物に及ぼす変化などは事業ごとに影響を予測するのではなく、累積的に起こる環境変化を予測し影響評価を総合的に行うべきである。

指摘箇所:4.2 計画段階配慮事項ごとの調査、予測及び評価の手法

3)評価・予測の範囲を広げるべきである
 直接の改変地である事業予定地のみならず、人々が景観や潮干狩りなどを楽しみ親しんでいる周辺海域一帯に影響が及ぶ恐れがあるため、事業実施予定地周辺のみとしている予測・評価の範囲を広げるべきである。埋め立て工事が進む泡瀬干潟では、埋立地周辺に工事の影響が広く及び、アジサシやウミガメが産卵に用いていた砂州が消失し、海草、貝類、サンゴ類などにも影響が及んでいることが明らかにされている(泡瀬干潟を守る連絡会、2023)。したがって、第2ステージの工事と同時進行で進める49haもの埋め立てを伴う本事業を進める場合には影響は海域全体に広がり、事業者が優先して保全すべきと認識するカーミージー一帯の「海域環境保全ゾーン」周辺の生物多様性にも影響する可能性があることを考慮すべきである。

指摘箇所:4.2 計画段階配慮事項ごとの調査、予測及び評価の手法

 以上のことから配慮書に記された内容では事業者が重要な影響を回避・低減できるとは考えられない。ラムサール・ネットワーク日本と海の生き物を守る会は、20年以上の時間をかけて回復した沖縄島中部西海岸で最も健全であるサンゴ礁生態系の破壊を伴う本事業を中止し、積極的に保全すべきであると考える。

引用文献:
沖縄県(2009年)平成21年サンゴ礁資源情報整備事業報告書
琉球新報(2024年8月)サンゴが真っ白に! 浦添西海岸でサンゴが白化 海中も「暑い」地球温暖化の影響広がる https://ryukyushimpo.jp/news/entry-3364453.html
泡瀬干潟を守る連絡会(2023)http://awase.net/maekawa/20150906sangori-hutyekku.htm

意見書のPDFはここから

【関連情報】
◎沖縄防衛局:那覇港湾施設の移設について
◎浦添市:西海岸開発に係る浦添市素案をご紹介します
◎環境省:那覇港湾施設代替施設建設事業に係る計画段階環境配慮書に対する環境大臣意見の提出について
◎環境省:「那覇港湾施設代替施設建設事業に係る計画段階環境配慮書」に対する環境大臣意見(PDF)
◎沖縄県:那覇港湾施設代替施設建設事業に係る計画段階環境配慮書に対する知事意見(PDF)