日韓NGO湿地フォーラムツアーの参加報告

第20回日韓湿地フォーラムに引き続き、2026年3月1日~4日に漣川から釜山まで移動し、韓国のいくつかの湿地を訪れました。

シファ湖
シファ湖は、かつて深刻な水質汚濁に直面しながらも、市民参加型の環境管理や潮力発電の導入によって環境回復を遂げた事例です。1994年に湾を閉め切る堤防が建設されたことで水が滞留し、工業排水の影響も重なって水質は急速に悪化しました。その後、海水の流入を再開し、潮汐を利用した潮力発電所が整備されたことで、水循環の回復とともに水質は改善しました。現在も地域住民や環境NGOによる湿地保全の取り組みが続けられています。シファ湖の事例からは、開発によって深刻な環境問題が生じた地域でも、適切な技術的対策と市民参加による合意形成を通じて環境の回復が可能であることを学びました。重要なのは、問題を前にして諦めない姿勢です。自然には人間が想像する以上の回復力があります。行政だけでなく市民や地域社会が主体的に関わり続けたことで、シファ湖は再生へと向かいました。こうした取り組みを伺い、地域社会の力強さを感じました。

セマングム
セマングムは、全長約33kmの防潮堤によって海域を閉め切った世界最大級の干拓事業です。当初は農地造成を目的としていましたが、防潮堤建設によって海水の流れが遮断され、水質悪化や生態系への影響が問題となりました。現在は水門を開閉して海水を導入していますが、水環境は依然として不安定な状態にあります。一方で、産業団地や空港建設などの開発計画も進められており、地域経済の活性化と湿地保全をめぐる議論が続いています。セマングムを訪れて強く印象に残ったのは、韓国の公共事業の規模の大きさでした。全長約33kmの防潮堤で海域を閉め切る計画は、日本の干拓事業と比べても桁違いの規模です。こうした大胆な開発にダイナミックさを感じる一方で、干拓地の土地利用や水管理の方針が定まりきっていない巨大開発であることに違和感も覚えました。シファ湖とセマングムはいずれも大規模な沿岸開発の事例ですが、環境再生が進んだ場所と、今も開発と保全の方向性が模索されている場所という対照的な姿のように感じています。

ウポ沼
ウポ沼は韓国最大級の内陸湿地で、多くの水鳥が生息しています。近年はトキの保全活動の拠点としても注目され、2018年にはラムサール湿地都市(Wetland City)に認定されました。湿地や水田環境の保全、有機農業の推進など、トキが生息できる環境の回復を目指した取り組みが進められています。2025年には韓国で初めてトキの第3世代が誕生したことも報告されており、保全活動の成果が現れ始めています。ウポ沼で特に印象に残ったのは、トキの保全を巡る視点でした。「かつてトキは中国北部から朝鮮半島へ渡ってくる鳥でしたが、現在の保全活動は主に韓国南部で行われています。将来的に北部地域でも生息環境が整えば、かつてのような渡り鳥としての姿が再び見られるかもしれません。」こうした話を聞き、単に人為的に個体数を増やすのではなく、生きものが自然に戻ってこられる環境を整えることが、国境を越える渡り鳥の保全のあり方だと感じました。トキが暮らしやすい湿地や水田環境を維持することが、長期的な保全につながるのだと思います。

マドン湖
マドン湖周辺は、冬になると多くのクロハゲワシが飛来する重要な越冬地です。近年は餌不足などによる個体数減少が懸念されていますが、この地域では家畜の死体を利用した給餌活動が行われ、越冬個体数の回復にもつながっています。また、「トゥンボン」と呼ばれる農業用の水たまりも印象に残りました。農業用水を確保する小さな貯水場所で、用水路や大規模なため池がなくても農業ができるよう工夫された地域の知恵だといいます。こうした仕組みから、自然条件に合わせて農業が発展してきたことを感じました。

ナクトンガン
洛東江の干潟は想像以上に広く、そのスケールに圧倒されました。私が活動している藤前干潟と比べても干潟の広がりが桁違いで、強く印象に残りました。一方で、この地域では山を削った土砂で海を埋め立てる新空港の建設計画が進められており、総事業費は約15兆ウォンとされる韓国最大級の公共事業の一つとなっています。洛東江の視察を通して、韓国では保全も開発も日本に比べて規模が非常に大きいと感じました。これには国土条件や都市形成の違いも関係しているのではないかと思います。日本は地震が多く、防災の観点から都市構造や開発に様々な制約がありますが、韓国では比較的地震リスクが小さいため、大規模な造成や都市開発が進めやすい側面もあるのかもしれません。自然環境の保全と開発のあり方は、それぞれの国の自然条件や社会背景とも深く関わっているのだと感じました。

今回の視察を通して、現地で活動されている方々の熱意を強く感じました。自分たちの地域の湿地に誇りを持ち、その価値を守ろうとする姿勢に深く心を打たれました。こうした湿地への誇りや地域への思いが、次の世代へと受け継がれていくのだと思います。また、20回にもわたり日韓でフォーラムが開催され、湿地の保全という共通の目標のもと交流が続いていることにも大きな感動を覚えました。このような貴重な機会をいただきましたラムネットJのみなさん、そして温かく迎えてくださった韓国のみなさんに心より感謝申し上げます。

西亮憲(藤前干潟を守る会)